「小口」を斜めに切ってみた(なんと5000部の注文が確定!)
仕上がりサイズ | 変形(縦245㎜×左右169㎜×厚さ12㎜) |
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綴じ方 | アズマ綴じ |
本文 | 53枚(ピズムマット K/93.5k) |
表紙 | 紀州色上質ブルー 超厚口 |
こんにちは、栄久堂の佐藤です。
突然ですが、みなさんは「アイデア出し」って得意ですか?
社内の企画会議やブレスト、クライアントとの打ち合わせ……。
職種によって状況はさまざまだと思いますが、ゼロからアイデアをひねり出すのは本当に大変ですよね。
この製本実験室もそうなんです。
「まだ世の中に存在しない本を、思いつくままに作ってシリーズ化してみたらおもしろいんじゃないか?」
そんな、極めて軽いノリで始めた企画(というよりも遊び感覚?)だったのですが……。いざやってみると、まだ世の中に存在しない本を考えるのは予想以上に大変でした(笑)。
トイレの後で手を洗ったときに「タオルが表紙になったらおもしろいかも」と思ったり、会社の作業場を歩いていて「この壁紙のあまり材料、何かに使えないかなぁ?」と考えたり。
私の場合は、日々の生活の中でふっとアイデアが生まれることがほとんどです。対象は本ですが、書店を歩いていてもアイデアは浮かんできません。日頃の仕事の延長にある場所では、新しい発想を巡らせることは難しいのかも? なんて思います。
製本実験「斜めに切られた小口」
さて、そんな苦心の中で生まれたアイデアの一つがこちら。
分かりますか?ちょっと角度を変えて見てみましょう。
小口側を見ると?
この本、小口(側面のパラパラめくるほう)が斜めに切れているんです。本の背中(綴じられているほう)はまっすぐですが、小口側だけが斜めになっています。
どんな本?
ある特殊な断裁方法を用いることで、こうした本ができ上がります。
実際にページをパラパラしてみると、非常にめくりやすいです。一方向だけですが、指が引っかかりやすいので、とても簡単にパラパラめくれます(逆に反対方向からだと、ページが突っ張っている上に指も引っかからないので、めくるのが非常に難しいです)。
綴じ方は、180度以上開けるようになる「アズマ綴じ」という方法を採用しています。開き方は本当にきれいだと思います。右のページと左のページがつながっている1枚の紙のように見えるので、見開きで絵柄を載せる際や、写真集を作る際にはぜひとも試してほしい綴じ方です。
なぜこんな本を作ったかというと、理由は何もありません。メリットもあまり思いつきません(笑)。
でも、小口が斜めに切れているので、ただ置いてあるだけでも側面の印刷が見えて興味を惹くと思うんですよね。書店で平積みされていたら、きっと注目を集めるんじゃないでしょうか。
実はこの実験的製本レポートには、後日談があります。
上で書いた通り、この本を作った際には、具体的な用途はまったく考えていませんでした。
ところが、以前に公開していたサイトで偶然この本を見たというあるデザイナーさんから、突然ご連絡をいただいたんです。
なんでも、そのデザイナーさんは、クライアントである刃物屋さんのスタイルブックを制作しているとのこと。「斜めに切れた小口が刃物みたいだ。これを活用して斬新なスタイルブックを作れるんじゃないか」と考えたそうで。
当初は「大量製本は不可能かなぁ」と思っていたのですが、断裁技術に特化したパートナー企業さんの協力を得て、なんだかんだと5000部の注文をいただきました!
私の思いつきで作ってみた本が世に出るのは本当に稀なのですが、ときにはこうしたことも起きるんですよね。
今回のケースのように具体的なイメージが固まっていなくても、なんとなく「こんなことできない?」とご相談いただくのも大歓迎ですよ!
(実現できなかったらごめんなさい)